2018/03/23 環境科学科
「バイバイン」とは、藤子・F・不二雄『ドラえもん』第17巻、第1話に登場する、ひみつ道具(薬)です(昨年10月にはテレビでも放映されました)。この話の冒頭に出てくる以下の会話をもとに、「私たちは富をどうやったら増やせるのか」についてちょっとだけ考えてみましょう。
[のび太が、皿にのった1個のくりまんじゅうを見ながら、うなっている]
の び 太: 「う~~ん‥・。」
ドラえもん: 「何をうなってるんだ。」
の び 太: 「う~~ん、実に困った。このくりまんじゅう、食べるとうまいけど無くなるだろ。食べないと無くならないけど、うまくないだろ。食べても無くならないようにできないかなあ‥・。」
「アホか、こいつ・・・」みたいな顔をしながらドラえもんが四次元ポケットから取り出したのが「バイバイン」という薬でした。この薬をかけると、1個だったくりまんじゅうが5分後には2個、10分後には4個、と5分ごとに倍々で増えていくのでした。増えすぎちゃって困る、というのがこの話のオチでしたが、今回は別のところに注目しましょう。
実は、この会話の中で真実に近いことを述べているのは、のび太くんの方です。・・・食料は食べたら無くなる。食べなかったら無くならないのです(まあ、そのうち腐っちゃいますけど)。のび太くんはゆたかな現代の日本で親に食べさせてもらいながら生活しているので、それ以上には思いが至らないかもしれませんが、続きはこうなるでしょう。・・・食べなかったら死んでしまう。今、死なないためにはやっぱり食べるしかない。そして、将来もずっと生き続けるために、今食べる食料に含まれているエネルギーを使って働き、新たに食料を手に入れよう・・・と。使うエネルギーよりも手に入るエネルギーの方が大きい限り、生きてゆけるでしょう。でも、なかなか食料は増えてはくれないでしょう。
バイバインの液がかかったくりまんじゅうとは違って、現実の食料を増やすのには、かなりの時間と労力と創意工夫が必要でした。人類は、最初、木の実拾いやイノシシ狩りなどで食料を調達していましたが、そのうちに農業が発明され、その農業も機械や化学肥料を使用する近代農業へと進化をとげました。その結果、農作業に従事する人1人が生産できる食料の量は飛躍的に増大し、農業にたずさわらない多くの人々まで十分に食べさせることができるようになったのです。
でも、こんなに食料を大量生産できるようになった裏側には、石油の消費があります。農作業の機械を製造したり動かしたりするのにも、化学肥料を製造するのにも、大量の石油が投じられています。そうして「生産された食料の中に含まれているエネルギーよりも、それを作るために消費されるエネルギーの方が大きい」というおかしな事態が日常的に起こっているのです。世界規模でこのようなことをこれから何年続けられるか、はっきりしたことは言えませんが、永久には続けられないことは確かでしょう。人類がずっと望んできた「倍々で富を増やせたらいいな」という夢はある程度まで実現しましたが、これから先もずっとかなえられるとは限らないようです。
(環境科学科:山根卓二)