2017/08/19 環境科学科
自然を理解し,人間と自然との共生・調和について学ぶ環境科学科。そのカリキュラムの中でも一風変わった実習科目が「農業基礎実習」(選択科目)です。
この実習の目的は,主に2年次の1年間に,四季折々の野菜や穀物の栽培方法を学び,自分の手で育てることを通して,人間と自然との重要な接点である農業への理解を深めようというものです。他大学の環境系の学部や学科でも,あまり例をみない実習ではないでしょうか。
実習農場の場所は,岡崎キャンパスのある小高い丘から下りて少し歩いたところ。周辺は自然が豊かで,ニホンザルをはじめとする野生動物が日常的に出没するため,4年前の農場開設当初から電気柵を設けるなど防獣対策には気を配っています。それでもはじめのうちは柵のわずかな隙間から侵入され農作物が被害を受けるなど,自然との共存の難しさを痛感することも・・・。もちろん今は,万全の対策済みです。
実習農場の中は,大きく共同区画とグループ区画に分かれます。共同区画では,愛知県農業総合試験場のOBで,農業指導経験も豊かな菅原眞治先生のご指導のもと,実習生全員で農作業に取り組みます。世話が行き届いた区画は美しく,その姿はまさに野菜栽培の見本園。近所の方にもよく褒められます(笑)。一方のグループ区画は,実習生が隣をお手本に,自ら考えながら農作業を行う場。実習で扱う野菜のほか,自分の興味のあるものを持ち込んで育てている実習生もいます。
ところで肝心の収穫物はというと・・・?大学として自画自賛のようですが,これがまた質・量ともに素晴らしいできばえ!それほど広くない農地ですが,とても実習生だけでは消費しきれない量のトマト,ナス,ピーマン,スイカ,カボチャ,トウモロコシ,エダマメ,ジャガイモ,サツマイモ,キャベツ,ハクサイ,ブロッコリー,タマネギなど,それも様々な品種が,1年間を通して収穫されます。
なお,私自身も別の実習「環境保全型農業実習」で指導を行っており,こちらでは野菜栽培のほか,小さな水田で稲作を行っています。現代の稲作は,田植えから収穫まで,作業の多くを農業機械を用いて行うのが普通ですが,こちらの実習では,小さな水田とはいえこれらを全て手作業で行っています。その中でも特に労力を要するのが雑草の駆除。除草剤は使わないという方針のもと,全て手で抜いています。
考えてみれば,どうして自然の中の植物は放っておいても育つのに(いわゆる「生存バイアス」かもしれませんが),イネや野菜のような栽培植物は人間が手間ひまかけて育てないといけないのでしょう?それは,イネをはじめとする栽培植物も,もともとは雑草と同じ野生植物であったわけですが,栽培植物は野生を生き抜く強靭さにかけるコストと引き換えに,例えば実が大きいとか収穫しやすいとか,おいしい,食べやすいといった人間に都合の良い形質に多くのコストを振り向けるよう,品種改良されてきたからに他なりません。これらは人間による栽培管理を前提として改良されてきたこともあり,そのため,大きくするためには余計に肥料や水をあげないといけないし,かといって雑草との光や養分をめぐる競争にはたいてい負けてしまうので,人間が雑草を取り除いてあげないといけないのです。
しかしその労力以上の大きなリターンが期待できるからこそ,農業は今日まで発展してきたといえます。私と実習生たちも例年,冬に迎える実習の最後には,収穫した白米と白菜たっぷりの水炊き鍋でリターンを得るのが恒例となっています(笑)。育てるだけでなく,獲れたものをおいしく食べるまでが農業実習。そのころには知識と技能,経験を積み重ね,自然のありがたみも味わえるようになっていることでしょう。
(環境科学科 守村)